東京高等裁判所 平成2年(行コ)63号 判決 1992年10月26日
控訴人
東京都地方労働委員会
右代表者会長
古山宏
右訴訟代理人弁護士
宮瀬洋一
右指定代理人
松本柾勝
同
成川美恵子
控訴人補助参加人
ネッスル日本労働組合
右代表者執行委員長
斉藤勝一
控訴人補助参加人
ネッスル日本労働組合東京支部
右代表者執行委員長
松村定春
控訴人補助参加人
松村定春
右補助参加人ら訴訟代理人弁護士
岡村親宜
同
山田裕祥
同
古川景一
被控訴人
ネッスル日本株式会社
右代表者代表取締役
マイケル ウイリアム オリバー ギャレット
右訴訟代理人弁護士
青山周
主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人の請求を棄却する。
三 訴訟費用(補助参加によって生じた訴訟費用を含む。)は、第一、第二審とも、被控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の申立て
一 控訴人
主文と同旨。
二 被控訴人
本件控訴を棄却する。
第二当事者の主張
当事者双方の事実上及び法律上の主張は、原判決九頁六行目の「浦和出張所長への配置転換」(本誌五六三号<以下同じ>76頁3段28~29行目)を「第一地域営業部神奈川営業所のトレード・セールスマンへの配置転換」に、同二四頁一〇行目の「把握、・指導」(79頁1段11行目)を「把握、指導」に、同行目から同一一行目にかけての「ファンクション・セールスマン」(79頁1段12行目)を「ファンクショナル・セールスマン」に、同三一頁一〇行目(80頁1段19行目)及び三二頁六行目(80頁2段1行目)の各「スポットチェック」をいずれも「スポット・チェック」に改め、当事者双方及び補助参加人らが当審において追加した主張を次のとおりに付加するほかは、原判決の事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。
一 控訴人の主張
1 およそ、不当労働行為の成否の判断に当たっては、単に問題となっている行為の外形や表面上の理由のみを取り上げて、これを表面的抽象的に観察するだけでは足りず、使用者が従来労働組合活動に対してとってきた態度、当該行為がなされるに至った経緯、同行為が当該企業ないし職場における労使関係上有する意味、これが労働組合活動に及ぼす影響等諸般の事情を実質的に考察し、これらとの関連において当該行為の有する意味や性格を的確に洞察、把握した上で判断すべきである。被控訴人の補助参加人松村に対する本件配置転換については、次に述べるような背景的諸事情があるのであるから、これを十分に斟酌して判断すれば、本件配置転換が補助参加人松村及び補助参加人両組合に対する不当労働行為であることは明らかであるというべきである。
(一) 被控訴人は、昭和五七年秋の旧組合大会の開催をめぐる旧組合内部の主導権争いが生じたころから、補助参加人両組合を敵視し嫌悪する姿勢を取り続けていた。このことは、その後全国の多くの地方労働委員会において被控訴人を被申立人とする不当労働行為救済命令申立事件が係属し、被控訴人に対して多くの救済命令が発せられていることからも明らかである。本件配置転換は、丁度昭和五七年から同五八年春にかけて旧組合内部における両勢力の対立、抗争が激しくなった時期に、しかも、被控訴人による補助参加人両組合に対する敵視、嫌悪の姿勢と、右両組合所属の補助参加人松村に対する執拗な組合脱退勧誘活動等が続く中で行われたものである。
(二) 補助参加人松村は、右の当時被控訴人がその存在をも否定していた補助参加人両組合に所属する唯一の役付き従業員(係長職)であり、被控訴人による執拗な補助参加人両組合からの脱退勧誘を拒否し続けていた。そのため、被控訴人は、組合側からの攻勢に対する防波堤としての機能を果たすべきセールスマンの管理、監督者としての役割を補助参加人松村に期待し得なくなっただけでなく、かえって、同補助参加人がその障害となったため、本件配置転換を強行したものである。したがって、補助参加人松村に対するこのような措置は、補助参加人両組合に所属する同人から出張所長としての地位を奪うことにより、補助参加人両組合の影響力を阻止ないし減殺することを狙った支配介入行為であるといわなければならない。
2 補助参加人松村は、本件配置転換時までの間に、既に過去十数年間にわたりディストリクト・スーパーバイザー等としてのキャリアを順調に重ねてきており、その間の勤務状態についても被控訴人から何ら落ち度の指摘を受けていなかったのであるから、本件配置転換のごとき降格配転のなされる理由はない。本件配置転換は、補助参加人松村が浦和出張所長として着任した後の僅か五か月間程度の短期間の実績のみをとらえて決定されたものであるが、このようにあまりにも性急な本件配置転換の決定過程をみると、同補助参加人の能力の実証性を判断する上での公正さについて強い疑問を抱かざるをえず、被控訴人の真意は他に存するものとみるのが相当である。
二 被控訴人の主張
1 本件配置転換が業務上の必要性に基づくものであることについて
(一) 本件配置転換当時の被控訴人の営業本部の構成は、地域営業部、営業所、出張所からなっており、そのうちの出張所は、営業組織の最小単位となるものである。そして、ディストリクト・スーパーバイザーは、その最小単位である出張所の長であり、被控訴人の営業活動の第一線の長として、重要な地位を占めていたものである。(なお、被控訴人は、その後昭和六三年一月一日に営業本部の組織変更を行い、従来の地域営業部、営業所、出張所の編成を、一〇支店、二四営業所に改めたので、現在では、出張所という組織も、出張所長〔ディストリクト・スーパーバイザー〕という組織も存在しない。)
なお、ディストリクト・スーパーバイザーの職務内容は、原審において主張したとおりである(原判決一四頁五行目(77頁2段31行目)から同一五頁四行目(77頁3段21行目)まで)が、ディストリクト・スーパーバイザーの当該出張所における販売目標の達成、顧客の管理、部下の指導、育成、他部門との連絡、調整等についての責任は重く、被控訴人の営業活動の第一線における中核的存在として果たす役割は、非常に大きなものであった。
(二) 被控訴人は、補助参加人松村に対し、本件配置転換に先立って、昭和五七年一〇月一日付けで第一地域営業部特約卸店担当課アシスタント・スーパーバイザーから同部南関東営業所浦和出張所長(ディストリクト・スーパーバイザー)への配置転換を命じた(以下この配置転換を「第一次配置転換」という。)。この第一次配置転換は、同人が特約卸店担当課のアシスタント・スーパーバイザーの部下であるトレード・セールスマンとのコミュニケーションが十分でなく、更に職務上のリーダーシップにも欠けるところがあった上、顧客の訪問も必ずしも十分でなかったことから、同人に対し、同人のリーダーシップを啓発し、部下を通じて行う営業活動を更に習得させるため、当時浦和出張所長であった小沢明が本社の研修担当に転出する後任の人事として、決定されたものである。このように、第一次配置転換は、補助参加人松村が特約卸店担当課のアシスタント・スーパーバイザーとしての職務、責任を遂行する上で問題があったので、同人の能力を啓発するために行ったものである。
(三) 補助参加人松村が浦和出張所長に着任した後、同人の上司である金作営業所長は、同人に対し、ディストリクト・スーパーバイザーとしての計画的なフィールド活動の実施、重要顧客の販売計画及び販売政策等の把握、部下の掌握、指導、ファンクショナル・セールスマンとの連絡、調整、販売目標の達成等について、再三にわたり指導、督励を行ってきた。しかるに、同人は、金作営業所長の再三の指導、督励にもかかわらず、改善に向けての努力をしようとしなかったため、部下とのコミュニケーションが悪く、部下の掌握も不十分であった。更に、補助参加人松村は、同人自身のフィールド活動も不足し、担当顧客の把握も不十分であり、その結果、浦和出張所の販売目標が達成されなかった。これは、同人が第一次配置転換を降格であると曲解して、その配置転換の理由を正しく理解しようとせず、また、ディストリクト・スーパーバイザーの職務内容、責任及び権限を十分に理解してこれを全うしようとする意欲に欠けていたことが一因となっている。
このように、補助参加人松村は、部下を通じて仕事を行うディストリクト・スーパーバイザーとしては不適格であったので、被控訴人は、やむを得ず、同人に対し、部下を通さずにできる仕事であって、かつ、同人がかって経験したことのあるトレード・セールスマンへの本件配置転換を命じたものである。そして、同人がディストリクト・スーパーバイザーとして不適格であった理由は、被控訴人が原審において主張したとおりであり(原判決一五頁五行目(77頁3段20行目)から同二六頁二行目(79頁2段3行目)まで)、したがって、被控訴人は、業務上の必要性に基づきやむを得ず本件配置転換を命じたものである。
2 被控訴人に不当労働行為意思が存在しないことについて
「補助参加人組合」及び「補助参加人支部組合」なるものがもともと存在しないものであることは、原審において主張したとおりであるが、仮に、その存在を認め得るとしても、補助参加人組合が存在するに至ったのは、昭和五八年三月二〇日であり、補助参加人支部組合が存在するに至ったのは、同年四月九日であるというのであるから、原審が認定した本件配置転換の決定の経緯及びその時期に照らせば、本件配置転換は、補助参加人松村が補助参加人組合及び補助参加人支部組合に所属していることとは何ら関係のないことが明らかである。また、被控訴人においては、従来補助参加人松村以外にも、ディストリクト・スーパーバイザーから、部下を通さずに一人で行える仕事に配置転換した例があるのである。そして、このような配置転換の例は、補助参加人両組合に所属する従業員の中にも、疎外両組合に所属する従業員の中にも見られるのである。したがって、被控訴人には、本件配置転換につき不当労働行為意思がなかったというべきである。
三 補助参加人らの主張
補助参加人松村は、本件配置転換の当時、ディストリクト・スーパーバイザーとしての適格性に欠けるところはなかった。
1 出張所長は、部下のセールスマンを統括しているものであり、そのためにはまずデスクワークが不可欠である。セールスマンの営業活動が効率的に行われ、その営業成績を向上させるためには、営業システムに対する理解を前提にして、必要な資料を揃え、セールスマンが効率的に営業活動できるように組織しなければならないのである。
2 被控訴人は、製造メーカーであり、その製品の売買契約は被控訴人と商社との間で締結されており、被控訴人のセールスマンは、流通経路上の問屋や小売店との売買契約に直接関与するわけではない。セールスマンは、被控訴人から商社、特約卸店を経由して末端の店舗に流れる商品について、受注促進や販売促進その他の営業活動を行うのである。したがって、問題とされている「販売実績」とは、セールスマンが自ら販売を行った商品の数量ではなく、小売店に働きかけて特約卸店等に取り次いだ商品の数量にすぎないのである。しかも、浦和出張所の管轄区域内で扱われた商品の数量の全部が同出張所の「販売実績」となるわけではない。すなわち、
(一) 百貨店やビッグ・ストアの場合には、その本店や支部に受注促進の営業活動をするのは、東京販売事務所所属のファンクショナル・セールスマン(チェーン・チーム)であり、これを特約店等に取り次いだ数量がファンクショナル・セールスマンの販売実績となる。浦和出張所のスリー・エス・セールスマンは、百貨店やビッグ・ストアの支店に出向いて品揃えをしてもらい、売り場の占有面積を増やしてもらう等の販売促進の営業活動を行うが、これは、その販売実績とはならないのである。
(二) ローカル・チェーン・ストアーの場合には、その本部に受注促進の営業活動をするのは、南関東営業所所属のファンクショナル・セールスマン(チェーン・チーム)であり、これを特約店等に取り次いだ数量がファンクショナル・セールスマンの販売実績となる。浦和出張所のスリー・エス・セールスマンは、ローカル・チェーン・ストアーの支店に出向いて品揃えをしてもらい、売り場の占有面積を増やしてもらう等の販売促進の営業活動を行うが、これは、その販売実績とはならないのである。
(三) 浦和出張所管内の独立スーパーの場合には、受注促進の営業活動をするのは、浦和出張所のスリー・エス・セールスマンであり、これを特約店等に取り次いだ数量がその販売実績となる。
(四) 浦和出張所管内のパン屋、酒屋、一般小売店等については、受注促進の営業活動をするのは、特約店、二次卸店所属のセールスマンであり、浦和出張所のセールスマンは関与しない。
3 浦和出張所は、管轄区域内の全店舗を通じて、ネッスル製品の販売数量及びマーケットシェアを上げ、そして、適正価格維持に努めなければならないのである。そして、今日では、ネッスル商品の販売に占めるスーパーマーケットでの販売の割合が八割程度になり、その中のおよそ八割をビッグ・ストアでの販売が占めているのが現状である。浦和出張所の販売目標は、被控訴人全体から見れば割合の低い独立スーパー関係の分野であるが、目先の販売目標の達成のために、これだけに重点を置いてはならないのであって、全種類の店舗をバランス良く訪問するようにしなければならないのである。また、管轄区域全体を通じて、販売数量及びマーケットシェアを上げ、適正価格を維持するためには、地域人口と店舗配置の関係や大型店とそれ以下の店舗の関係、地域別に過去に訪問できていた店とできていなかった店等のデータを揃えて分析し、効率的にセールスマンを配置することが必要なのである。
4 補助参加人松村は、浦和出張所長に配置転換される前は、三菱商事、伊藤忠商事、日商岩井、トーメンの四商社と明治屋、国分等の特約店の本社、本部を相手にして営業活動を行う東京販売事務所特約卸店担当課のアシスタント・スーパーバイザーをしていたものであり、そのような同人としては、浦和出張所においても、右のような基礎データの収集、分析なしに、闇雲にセールスマンを外回りさせることは、極めて危険なことであると判断したとしても当然である。そして、同人が浦和出張所長に配置転換された際には、前任者から、右のような基礎データの引継ぎは一切なされていないのである。そのために、同人は、浦和出張所に着任後、まず、基礎データを収集し、これを分析して効率的にセールスマンを配置する作業を行ったのである。しかも、この作業に従事したのは全部で一〇日間にも満たない日数であるが、そのためにフィールド活動率の低下が生じたのである。
したがって、補助参加人松村が右のようなデスクワークを行ったことは、その波及効果が大きく、被控訴人のために貢献するものでこそあれ、これを非難されるいわれはない。
第三証拠
証拠の関係は、本件記録中の原審及び当審の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する(略)。
理由
一 本件命令の成立
請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。
二 本件配置転換と不当労働行為の成否
そこで、本件配置転換が労働組合法七条所定の不当労働行為になるか否かについて判断する。
1 まず、右判断の前提となる補助参加人両組合の存否についての認定及び判断は、次のとおり補正するほかは、原判決三六頁五行目(80頁4段4行目)から同五六頁四行目(83頁4段20行目)までの理由説示と同一であるから、これをここに引用する。
(一) 原判決三六頁八行目の「乙第二二三号証」(80頁4段16行目の(証拠略)<以下同じ>)から同一〇行目の「第二三四号証、」までを「乙第八号証、第九号証、第三七号証、第二二三号証ないし第二三四号証、」に改め、同三七頁一行目の「第二九八号証」の前に「第二八八号証、第二八九号証、」を加え、同二行目の「乙第一四ないし第一七号証、」を「乙第一二号証、第一四号証ないし第一七号証、」に、同三行目の「第一九ないし第二二号証、」を「第一九号証ないし第二五号証、」に、同行目から同四行目にかけての「第二九号証、第三〇号証、第三二ないし第三四号証、」を「第二九号証ないし第三四号証、」に、同四行目から同五行目にかけての「第一六一号証、第一六二号証、」を「第一六〇号証ないし第一六二号証、」に改める。
(二) 原判決三八頁三行目の「本部役員選挙」(81頁1段1行目)を「昭和五七年度の本部役員選挙」に、同九行目の「双方の立場から」(81頁1段11行目)を「双方の立場に立つ各候補者が」に、同三九頁八行目の「投票実施中の投票」(81頁1段27~28行目)を「投票実施中の右各選挙」に、同行目(81頁1段28~29行目)から同九行目にかけての「定期又は臨時全国大会を開催すること」を「第一七回大会又は臨時全国大会を同年九月二〇日までに開催すること」に、同一〇行目(81頁2段1~3行目)から同一一行目にかけての「本部役員の弾劾、投票の完全実施並びに定期又は臨時全国大会開催要求書」を「本部の弾劾、投票の完全実施並びに定期又は臨時大会開催要求書」に改め、同一一行目の「旧組合本部」(81頁2段3行目)の前に「同年九月二日に」を加える。
(三) 同四〇頁四行目の「一方、」(81頁2段10行目)の次に「同年九月三〇日には、」を、同七行目の末尾(81頁2段14行目)に「その申請を受けた本部審査委員会は、同年一〇月三一日に、三浦を組合員権利停止二年間の制裁処分に付すべきことなどを内容とする答申をした。」を加える。
(四) 原判決四一頁三行目の「一〇名」(81頁2段26行目)を「九名」に、同四二頁一行目から同二行目(81頁3段13行目)にかけての「出席代議員のみで」を「出席代議員のみによる」に改め、同三行目の「付すること」(81頁3段16行目)の次に「(但し、このうち、前記の署名運動に関与したことを処分の理由とするものは、三浦ら九名である。)」を加え、同八行目の「決議し、」(81頁3段25行目)を「決議した。」に、同行目の「直ちに」(81頁3段25行目)から同九行目の末尾(81頁3段27行目)までを「そして、右決議に基づく組合員権利停止の処分により、三浦、萱原定彦、溝口栄蔵の三名の本部執行委員、藤ノ木重晴、平田容邦の両東京支部副執行委員長及び小森田頼道同支部執行委員のほか五名の役員を解任し、本部執行委員会は、直ちに被控訴人に対し、三浦、萱原定彦、溝口栄蔵の三名の本部執行委員を解任したことを通知した。」に改める。
(五) 原判決四三頁四行目の「三浦ほか一名」(81頁4段6行目)を「三浦ほか二名」に改め、同九行目の「決定し、」(81頁4段17行目)の次に「一一月六日にした三浦らに対する制裁処分をいったん取り消した上、」を加え、同四四頁四行目の「三浦らは、」(81頁4段27行目)を「三浦ら一三名は、」に、同六行目の「同裁判所」(82頁1段1行目)から同八行目の末尾(82頁1段3行目)までを「同裁判所は、同年一二月二日に、右一三名に対する制裁処分の効力を停止する旨の仮処分決定をし、更に昭和五八年二月二五日には、斉藤を本部執行委員長に選出した決議の効力を停止し、斉藤は三浦が本部執行委員長としての職務を執行することを妨害してはならない旨の仮処分決定をした。」に、同一一行目から同四五頁一行目(82頁1段9行目)にかけての「右支部大会や支部選挙」を「第一七回大会の決定に反する支部大会や支部選挙」に、同四五頁五行目の「同日」(82頁1段17行目)を「昭和五八年一月一五日に」に、同四六頁一行目の「同委員会」(82頁1段31行目)を「斉藤グループ」に改める。
(六) 原判決四六頁六行目の「同委員会は、」(82頁2段10行目)の次に「昭和五八年三月一六日に、」を、同四七頁三行目(82頁2段23行目)及び同一〇行目の各「代議員」(82頁3段5行目)の次にいずれも「及び本部役員総数一五名中一四名の本部役員」を加える。
(七) 原判決四八頁九行目の「一一月ころ、」(82頁3段24行目)を「一一月一〇日及び一六日に、」に、同四九頁三行目の「同年」(82頁4段1行目)を「昭和五七年」に、同七行目の「同月」(82頁4段8行目)を「同年一二月」に、同八行目の「同月一六日」(82頁4段11行目)を「同月九日」に改め、同五一頁一行目の「選出された。」(82頁4段30~31行目)の次に「そして、新たな支部役員名及び新規約は、同月一二日に被控訴人(東京販売事務所長)にあてて通知された。」を加え、同五行目の「登記」(83頁1段12行目)を「法人登記(労働組合法一一条所定の登記)」に改め、同五二頁五行目の末尾(83頁2段2行目)に「そして、新たな支部役員の氏名は、昭和五八年一月一七日に被控訴人に通知された。」を加え、同六行目の「第三二号証、」(83頁2段4行目の(証拠略))を削る。
(八) 原判決五五頁一行目(83頁3段25行目)と同二行目(83頁3段26行目)との間に行を改めて「そして、以上の認定事実によれば、補助参加人両組合は、いずれも労働組合法二条本文、五条一項、二項所定の労働組合に該当することは明らかである。」を加える。
2 そこで、被控訴人の補助参加人松村(以下、単に「松村」ともいう。)に対する不利益取扱いの成否及び被控訴人における不当労働行為意思の存否について判断するに、この点に関する当裁判所の認定及び判断は、次のとおり補正するほかは、原判決五六頁六行目から同六七頁八行目までの理由説示のとおりであるから、これをここに引用する。
(一) 原判決五八頁七行目の「設けている。」(84頁2段4行目)を「設けていた。」に同一〇行目の「置かれている。」(84頁2段10行目)を「置かれていた。」に、同六〇頁二行目(84頁3段5行目)及び同三行目(84頁3段7行目)の各「移動」をいずれも「異動」に、同四行目の「通勤」(84頁3段9行目)を「通勤距離及び時間」に、同六二頁五行目の「人事移動」(84頁4段20~21行目)を「人事異動」に改め、同六二頁一一行目から同六三頁一行目にかけての「乙第三二五号証」(84頁4段30行目)の次に、「、第三五二号証、第三五九号証ないし第三六一号証」を加え、同六三頁一行目の「前掲証人松村定春の証言」(84頁4段30行目)を「証人松村定春の証言(原審及び当審)」に、同三行目の「出張旅費」(85頁1段3行目)から同四行目の「差があること」(85頁1段5行目)までを「また、松村は、本件配置転換がなされる昭和五八年五月までは月額一万円の係長手当の支給を受けていたが、本件配置転換により、係長ないし係長相当職ではなくなったため、同年六月からはその支給を受けていないこと、そして、被控訴人の社内においては、ディストリクト・スーパーバイザーがトレード・セールスマンよりも事実上優位に格付けされており、同社の従業員の間でも、そのように理解されていたこと」に、同五行目の「あると解せられる。」(84頁1段7行目)を「あることは明らかである。」に改める。
(二) 原判決六三頁六行目の「補助参加人組合」(85頁1段8行目)を「補助参加人両組合及び同松村」に改め、同七行目の冒頭(85頁1段10行目)に「前掲乙第三六〇号証、」を加え、同行目(85頁1段10行目の(証拠略))の「乙第三五九ないし第三六一号証、」を「乙第三五九号証、第三六一号証、丙第六五号証、」に、同行目から同八行目(85頁1段10行目の(証拠略))にかけての「証人松村定春の証言」を「証人松村定春の証言(原審)」に、同八行目の「及び(85頁1段20行目の(証拠略))を「、証人植野修の証言により成立の認められる丙第四二号証ないし第四六号証の各一、二、」に改め、同九行目の「第一七〇号証」(85頁1段10行目の(証拠略))の次に「及び証人松村定春(原審及び当審)、同植村修の各証言」を、同六四頁七行目の「であると述べ」(85頁1段25行目)の次に「、旧組合の組合活動を批判し、その運営に介入する発言をし」を、同一〇行目の「忠誠を求めるため」(85頁1段31行目)の次に「、当時旧組合の組合員であった」を加え、同六五頁一行目の「長谷川」(85頁2段3行目)を「当時松村の上司であった長谷川課長」に、同二行目の「会社をつぶす気かとか、」(85頁2段5行目)を「会社をつぶす気であるとか、組合の」に、同五行目の「同年」(85頁2段10行目)を「昭和五六年」に改め、同六六頁二行目の「叱責し」(85頁2段24行目)の次に「、暗に旧組合の主流派による組合活動を批判し、同主流派から離脱するように勧告し」を加える。
(三) 原判決六六頁二行目(85頁2段24行目)と同三行目(85頁2段25行目)との間に行を改めて次のとおり加える。
「被控訴人ないしその利益を代表する管理職からの右のような働きかけに対して、旧組合は、被控訴人に進退伺を提出した組合員に対し、それを撤回する旨を記載した組合支部執行委員長あての撤回届を提出させて、組合員の団結意思を確認するなどの対抗措置をとった。」
(四) 原判決六六頁五行目の「確認したうえ、」(85頁2段29行目)の次に「『斉藤グループはアカだ。同グループは闘争至上主義で、会社にとっては非常に困った存在である。』などと斉藤グループをあからさまに非難し、同人に対し」を加え、同行目から同六行目にかけての「ことを示唆した。」(85頁2段30行目)を「よう勧告した。」に、同九行目から同一〇行目にかけての「申し向けた。」(85頁3段5行目)を「強く働きかけた。」に改め、同一〇行目の末尾(85頁3段5行目)に続けて「これらの同営業所長からの組合問題に支配介入する執拗な働きかけに対し、松村は、『不当労働行為は悪いことだ。』、『貴殿は組合問題にタッチしている。』、『私の組合問題は自分で決めます。』などと答えて、これに反発する態度をとり続けていた。」を加え、同一一行目の「昭和五八年三月二〇日当時」(85頁3段6行目)を「松村が浦和出張所に在任していた当時」に改める。
(五) 原判決六七頁一行目(85頁3段9行目)と同二行目(85頁3段10行目)との間に行を改めて次のとおり加える。
「(4) 松村が浦和出張所長に着任した際、前任者から同人に対しては、同出張所の営業活動上必要不可欠な顧客管理のための顧客リストの引継ぎがなかった。また、その際同人に対しては、部下の指導、育成上重要なOJT計画表の作成のための資料の引継ぎもなかった。そこで、松村は、浦和出張所長に着任後、自ら調査してこれらの顧客リストやOJT計画表作成のための資料を作成せざるを得なかった。そして、これらのことは、松村が斉藤グループ支持派に所属していたため、被控訴人側から同人が疎外された結果であると推認される。
(5) 松村が浦和出張所長として在任中、同人の部下であった飛田某が社内での昇格のための試験を受け、これに合格したが、このような部下の受験は上司である松村にとっては労務ないし人事管理上重要な事項であったにもかかわらず、この試験に関与していた金作南関東営業所長は、松村に対しては、右受験についての事前の連絡又は通知を全くしなかった。これも、松村が斉藤グループ支持派に所属していたためであると推認される。
(6) 本件配置転換を含む浦和出張所従業員の人事異動が発表されて間もない昭和五八年四月一六日に、当時横浜出張所長であった藤ノ木某は、松村の自宅に電話をかけ、同人に対し、貴方は能力的にはすぐ課長職になる人間である、したがって、貴方に対する今回の降格の人事異動については皆がおかしいといっている、これは組合絡みの異動である、そのことについて話したい旨述べた。そして、藤ノ木某からなされたこの電話の目的は、松村を斉藤グループ支持派から三浦グループ支持派に引っ張り込みたいためであったと考えられる。
(7) 松村が本件配置転換に伴う神奈川営業所トレード・セールスマンとしての事務引継ぎのため同年四月二一日から同月二八日までの間横浜市に出張した際、当時神奈川営業所長であった後藤某は、松村に対し、即刻三浦グループ支持派に移らなければ、今後貴方の面倒を見る気はない、会社が従業員から進退伺を集めたことは忘れてくれ、もし三浦グループ支持派に移らなければ、貴方の降格を元に戻すことはできないなどと述べ、同人が三浦グループ支持派に移るよう強く勧告した。
(8) 本件配置転換が行われた昭和五八年五月以降においても、被控訴人は、補助参加人両組合の存在を全く否認する態度を固持し、その後右両組合から被控訴人に対したびたび申入れのなされた、組合費のチェックオフ問題や本件配置転換を含む右両組合員に関する配置転換問題についての団体交渉を強く拒否している。」
(六) 原判決六七頁四行目の「原告は、」(85頁3段13行目)を「被控訴人ないしその利益を代表する管理職は、」に、同五行目の「嫌い、」(85頁3段15行目)を「嫌って、その組織に所属していた組合員に対し前記のような趣旨の進退伺を提出するよう要求するなど、これを弱体化させるための工作活動を執拗に続けるとともに、」に改める。
(七) 原判決六七頁八行目(85頁3段20行目)と同九行目(85頁3段21行目)との間に行を改めて次のとおり加える。
「(三) 以上の各事実を総合して考察すると、被控訴人が松村に対して行った本件配置転換は、当時松村が被控訴人の嫌悪する斉藤グループないし補助参加人両組合に所属する組合員であったこと、又は同人がこれらの組合に加入し若しくはこれを結成しようとしていたことを重大視し、松村の上司らによる再三の勧告にもかかわらず、同人が斉藤グループないし右両組合から離脱しなかったことに対する報復ないしみせしめとしてなした同人に不利益な降格処分であるとともに、その処分を通じて、斉藤グループないし右両組合の勢力を減殺し、その活動を阻害しようとしてなした右両組合に対する支配介入行為であるといわざるを得ない。したがってまた、被控訴人には、本件配置転換を行うに当たり、松村が被控訴人の嫌悪する斉藤グループないし右両組合の組合員であったことなどを理由として、同人に対し不利益な取扱いをするとともに、右両組合の結成ないし運営にも支配介入しようとする意思、すなわち労働組合法七条一号及び三号所定の不当労働行為意思があったことは明らかであるといわなければならない。」
三 本件配置転換と業務上の必要性の存否
ところで、被控訴人は、本件配置転換について不当労働行為意思のあったことを否認し、本件配置転換は業務上の必要性に基づくものであったと主張するので、その主張の当否について判断する。
1 まず、本件配置転換当時補助参加人松村が担当していたディストリクト・スーパーバイザーの職務内容について判断するに、この点についての当裁判所の認定及び判断は、次のとおり補正するほかは、原判決六八頁二行目(85頁3段27行目)から同七三頁一〇行目(86頁3段10行目)までの理由説示と同一であるから、これをここに引用する。
(一) 原判決六八頁六行目の「同松村定春」(85頁3段27行目の(証拠略))の次に「(原審及び当審)」を、同行目の「各証言」(85頁3段27行目の(証拠略))の次に「並びに弁論の全趣旨」を加え、同六九頁一〇行目の「調整」(85頁4段22行目)を「割当及び調整等」に、同一一行目の「右販売目標」(85頁4段23行目)を「右のようにして決定された主張所の販売目標」に、同七〇頁四行目の「調整を行いながらこの販売目標を達成することになる。」(85頁4段31行目から86頁1段2行目))を「調整を行い、組織的かつ効率的な営業活動を通じて、この販売目標を達成しなければならないのである。」に改める。
(二) 原判決七一頁三行目の「により、」(86頁1段21行目)を「やその他日常の部下とのコミュニケーションを通じて、」に、同五行目の「同行しての重要顧客訪問や」(86頁1段24行目)を「同行して重要顧客を訪問したり、」に、同六行目の「等により」(86頁1段25~26行目)を「等を行ったりすることによって」に、同八行目の「昭和五七年に」(86頁1段29行目)から同九行目の「熟読し、」までを昭和五七年九月に営業本部で作成されて、全てのディストリクト・スーパーバイザーに配付された『OJT指導基準』に従って行い、また、各セールスマンが自己の営業活動についての訪問先、面談者、活動内容等を記載して提出する日報や各セールスマンが自己の一か月間の活動状況及び担当顧客の動向等を記載して提出する月報をも熟読して、」に、同七二頁三行目(86頁2段8行目)及び同七行目から同八行目(82頁2段16~17行目)にかけての各「ファンクション・セールスマン」をいずれも「ファンクショナル・セールスマン」に、同八行目(86頁2段17行目)から同九行目(86頁2段18行目)にかけての「報告などして他部門との連絡及び調整をすべき任務」を「報告するなどして、他部門との連絡及び調整を行い、もって被控訴人の営業活動が組織的かつ効率的に行われるようにすべき任務」に改め、同一〇行目の冒頭(86頁2段20行目)に「(6)」を加える。
(三) 原判決七三頁一〇行目(86頁3段10行目)と同一一行目(86頁3段11行目)の間に行を改めて次のとおり加える。
「(7) なお、ディストリクト・スーパーバイザーの右のような任務は、自主的訪問システムに対する十分な理解の上に成り立つものであるところ、自主的訪問システムとは、各セールスマンが、基本的には予め作成した訪問予定表に基づいて担当顧客を訪問して営業活動を行うほか、市場の環境や顧客の要求に対応し時宜に応じて訪問予定を変更し、効果的な営業活動を行うための制度である。そして、この制度の下においては、各セールスマンは、日報に当日の訪問実績を記録するとともに、翌日の訪問予定をも記載して、上司であるディストリクト・スーパーバイザーに報告することが要求され、ディストリクト・スーパーバイザーは、この報告により、部下の活動状況を把握してチェックし、部下が市場環境及び顧客の要求に適合した営業活動を行うように適切な指示及び指導をしなければならないのである。」
2 なお、被控訴人は、松村に対する第一次配置転換につき、この配置転換は、同人がそれまで担当していた特約卸店担当課アシスタント・スーパーバイザーとしての職務、責任の遂行上問題があったので、同人の能力を啓発するために行ったものであると主張する。
しかしながら、本件の全証拠を検討しても、松村の特約卸店担当課アシスタント・スーパーバイザーとしての職務、責任の遂行上特段の問題があったことを認めるに足りる的確な証拠は存在しない。却って、(証拠略)によれば、第一地域営業部特約卸店担当課のアシスタント・スーパーバイザーであった当時の松村は、事務的ワークは得意としていたのに対し、顧客管理に関しては、積極性とリーダーシップにやや欠けるところがあったものの、同人に対する浦和出張所長への第一次配置転換は、同人のアシスタント・スーパーバイザーとしての職務、責任の遂行上に問題があったためではなく、それまで同出張所長であった小沢が本社の研修担当に異動することになったため、その後任として選任されたものにすぎないこと、そして、当時の浦和出張所には、若いセールスマンが多く、しかも、その管轄区域内には首都圏の特約店の支店が多いという特色があったことから、それまでに出張所長(ディストリクト・スーパーバイザー)としての経験の長かった松村を小沢の後任として配置して、その経験を活かして若いセールスマンを指導、育成するとともに、同人が特約卸店担当課のアシスタント・スーパーバイザーとして涵養したトレードの知識をも同出張所の顧客管理に活かすことを期待して、同人を浦和出張所長に配置転換したものであることが認められる。したがって、被控訴人の右主張は採用することができない。
3 ところで、被控訴人は、種々の項目を挙げて、松村はディストリクト・スーパーバイザーとしての職務を十分にこなすことができず、浦和出張所長として不適格であったため、本件配置転換を行った旨主張するので、被控訴人の主張する各項目ごとにその主張の当否について判断する。
(一) まず、松村のフィールド活動率とその内容についての認定及び判断は、次のとおり補正するほかは、原判決七四頁三行目(86頁3段16行目)から同七八頁八行目(87頁1段31行目)までの理由説示と同一であるから、これをここに引用する。
(1) 原判決七五頁二行目の「までをいう。」(86頁3段28行目)の次に「以下同じ。」を、同一〇行目の「他方、」(86頁4段11行目)の次に「前掲甲第五号証の二、」を、同行目の「乙第一九九号証、」(86頁4段11行目の(証拠略))の次に「第二〇〇号証、」を、同一〇行目(86頁4段11行目の(証拠略))から同一一行目(86頁4段11行目の(証拠略))にかけての「丙第三号証」の次に「、証人花野弘芳、同松村定春(原審及び当審)の各証言」を加え、同七六頁四行目の「昭和五七年の」(86頁4段20行目)を「昭和五七年一二月度の」に、同五行目から同六行目にかけての「全国平均が五五パーセントであったこと」(86頁4段22~23行目)を「の全国平均が五五パーセントであり、しかも、浦和出張所よりもフィールド活動率の低い出張所が七箇所もあって、そのうちの前橋出張所は三七パーセント、北海道第一出張所は三〇パーセント、東北第二出張所は二五パーセントであり、兵庫出張所は一五パーセントであったこと、一方、昭和五八年一月度は、毎年二回行う訪問店リストの改定(ルート改定)時期に当たり、そのため松村は基礎資料を取り揃えるなどして、浦和出張所長としての最初の右改定作業に従事しなければならなかったこと、また、同年一月度には年末年始の休業日があったほか、同年一月五日から二〇日までのうちの六営業日は松村の出席しなければならない会議の予定日になっていたこと、同年二月度においても、新しい部下のセールスマンの配置されることが内定したため、リストの再改定作業があって、松村は、訪問店リストの改定作業に伴う事務処理に八日間(四二パーセント)を必要としたこと」に改める。
(2) 原判決七六頁七行目(86頁4段24行目)から同一一行目(87頁1段1行目)までの全文を次のとおりに改める。
「右に認定の事実によると、松村の昭和五七年一〇月度から昭和五八年二月度までのフィールド活動率で目標値を上回ったのは昭和五七年一一月度だけであり、その他の月度のフィールド活動率は第一地域営業部所属のディストリクト・スーパーバイザー(松村を除く。)のフィールド活動率の平均値を下回っていることが認められる。しかしながら、全国的に見れば、浦和出張所よりもフィールド活動率の低い出張所が多数存在するのみならず、松村が浦和出張所のディストリクト・スーパーバイザーとして発令されたのは昭和五七年一〇月一日(もっとも、松村が浦和出張所長として正式に発令されたのは同日であるが、松村が事実上浦和出張所に着任し、出張所長としての業務を現実に開始したのは同年九月二〇日であったことは、当事者間に争いがない。)であるところ、右に検討した同人のフィールド活動率は、同人が未だ新しい仕事に慣熟していない右発令後僅か五か月間のみの数字にすぎないし、しかも、その間の昭和五八年一月度及び二月度においては、松村にとって着任後初めての浦和出張所管内の訪問店リストの改定作業等のデスクワークがあったのであるから、右のような短期間のフィールド活動率のみを捉えて、直ちに松村のディストリクト・スーパーバイザーとしての適格性の有無を問題にするのは相当でない。そして、右に認定したとおり、その後同人の昭和五八年三月度のフィールド活動率は上向きとなり、同年四月度には目標値をも上回っているのであるから、この点に関する松村の能力が格別に劣っていたとは認められない。」
(3) 原判決七七頁六行目の「わずか四日間」(87頁1段9行目)を「三日間」に、同八行目の「尤も」(87頁1段11行目)を「しかし」に改め、同八行目の「証人松村定春の証言」(87頁1段11行目)の次に「(原審及び当審)」を加え、同七八頁一行目から同二行目(87頁1段19~20行目)にかけての「していたことが認められないわけではない。」を「しなければならなかったことが認められる。」に、同三行目の「しかしながら、右認定のとおり、」(87頁1段21行目)を「右認定のとおりであって、」に、同五行目の「スポットチェック」(87頁1段25行目)を「スポット・チェック」に、同七行目の「避けるべきであり、」(87頁1段28~29行目)から同八行目の末尾(87頁1段31行目)までを「避けるべきであった。したがって、この点のみからすれば松村のフィールド活動の内容が十分であったとはいいがたいものの、同人がスポット・チェックを行い得なかった理由は右のとおりであるから、その責任を松村一人に帰せしめることは相当でない。」に改める。
(二) 次に、松村の自主的訪問システムに対する理解についての当裁判所の認定及び判断は、次のとおり補正するほかは、原判決七八頁九行目(87頁2段1行目)から同七九頁一〇行目(87頁2段23行目)までの理由説示と同一であるから、これをここに引用する。
(1) 原判決七八頁一〇行目の「スポットチェック」(87頁2段3行目)を「スポット・チェック」に改める。
(2) 原判決七九頁五行目(87頁2段12行目)から同一〇行目(87頁2段23行目)までの全文を次のとおりに改める。
「右(1)において認定したごとく、松村がスポット・チェックや重要顧客訪問を十分に行っていたとまでいえないことはそのとおりであるが、この全てが松村一人の責任によるものといえないことも先に説示したとおりである。また、証人金作耀三の証言によると、松村は部下のセールスマンの月報に殆どコメントすることがなかったことが認められるが、しかし、これは松村の浦和出張所着任後短期間内のことにすぎないから、この事実に、松村がスポット・チェックや重要顧客訪問を十分に行っていなかったことを併せて考慮しても、そのことから直ちに松村が部下の活動状況や市場環境及び顧客の要求を十分に把握しておらず、また、自主的訪問システムをも十分に理解していなかったとまで認定するのは相当でない。そして、その他に右主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。」
(三) 更に、松村の顧客管理の状況、部下の指導、育成の状況、他部門との連絡、調整の状況及び販売目標の達成状況についての当裁判所の認定及び判断は、次のとおり補正するほかは、原判決七九頁一一行目(87頁2段24行目)から同八八頁一一行目(88頁3段22行目)までの理由説示と同一であるから、これをここに引用する。
(1) 原判決八〇頁二行目の「スポットチェック」(87頁2段28行目)を「スポット・チェック」に、同五行目(87頁2段31行目)から同八一頁七行目(87頁3段18行目)までの全文を次のとおりに改める。
「前掲乙第一九八号証、丙第一号証、第二号証、第三八号証、証人花野弘芳の証言により成立の認められる甲第九号証によると、昭和五七年一〇月度から昭和五八年二月度までの期間中における南関東営業所管内の出張所の部下セールスマンの訪問店率は、古川昇の担当する千葉出張所においては九二・五パーセントであったのに対して、松村の担当する浦和出張所においては七九・一パーセントであったことが認められる。そして、これによれば、浦和出張所の訪問店率は、千葉出張所のそれに比べて、やや劣っていたといわざるを得ない。しかしながら、浦和と千葉の各出張所管内においては、地域の広狭、セールスマンの員数及びその経験年数、顧客の数及び分布の密度などが同一ではなく、それぞれに特性のあることが認められるから、右両者を右の数字だけで単純に比較することは問題であり、右の事実から直ちに、松村の行っていた顧客の管理が十分なものではなかったと速断することはできない。むしろ、前記認定のとおり、松村が浦和出張所に着任した際、同人に対して顧客管理のための顧客リストの引継ぎが行われなかったことからすれば、被控訴人の側ないし松村の前任者の側にこそ顧客管理を粗略にした責任があるというべきである。」
(2) 原判決八二頁三行目の「前掲証人花野弘芳の証言により成立の認められる甲第七号証、」(87頁3段29行目の(証拠略))を「前掲甲第七号証、」に改め、同四行目の「証人松村」(87頁3段29行目の(証拠略))の次に「(原審及び当審)」を加え、同一〇行目の「就任して数か月の」(87頁4段9行目)を「就任して間がなく未だ新しい仕事に慣熟していない」に、同八三頁三行目の「についての熱意を欠くものというべきである。」(87頁4段16~17行目)を「に対する努力が十分でなかったと評価されてもやむを得ない。しかし、これだけで直ちに松村の部下に対する指導及び育成の適格性の有無を問題にするのは相当でない。のみならず、松村がOJT計画表を提出しなかったことについては、前記認定のとおり、同人に対し同計画表作成のための資料の引継ぎをしなかった同人の前任者にも大きな責任があるといわざるを得ない。」に改める。
(3) 原判決八三頁一〇行目の「チェーンストアーの場合には、」(87頁4段25行目)から同八四頁八行目(88頁1段11行目)までの全文を次のとおりに改める。
「チェーンストアーの場合には、チェーン本部を担当する営業所所属のチェーン・セールスマン(ファンクショナル・セールスマン)の担当であって、チェーン・セールスマンがチェーン本部との商談により販売促進活動計画を取り決めた上、この活動計画に基づき、出張所所属のセールスマンがその担当区域内の各店舗においてその計画の実施に当たること、そのため、ディストリクト・スーパーバイザーとしては、チェーン・セールスマンとの連絡及び調整を密にして、部下のセールスマンが担当区域内の各店舗において効果的な販売促進活動をすることができるように指示すべきであること、ところが、松村においては、チェーン・セールスマンとチェーン本部との取り決め事項を部下のセールスマンに伝えたのみで、その取り決めに至る経緯や背景などについては十分に踏み込んだ説明をしていなかったこと、そのために、南関東営業所所属のチェーン・セールスマンから、浦和出張所所属のセールスマンはチェーン本部との取り決めどおりに動いてくれず、販売促進活動が効果を上げていないとの苦情を述べられたこともあったことが認められる。そして、右の認定事実からすると、松村の他部門との連絡及び調整には、若干の問題があったと評価されてもやむを得ない。しかし、松村は、浦和出張所に着任後間がなく、そのため、他部門との連絡及び調整に十分に慣熟していなかったことをも考慮しなければならないのであって、右の責任を松村の能力の不足のみに帰せしめるのは相当でない。」
(4) 原判決八五頁一行目の「前掲甲第八号証及び前掲証人金作耀三の証言によると、」(88頁1段16行目の(証拠略))を「前掲甲第八号証、成立に争いのない甲第二九号証の四、五及び乙第二〇三号証によれば、」に、同八五頁一〇行目の「ネスカフェの販売目標」(88頁2段2行目)から同八六頁三行目の「認められ、」(88頁2段8行目)までを「ネスカフェの販売目標は一一・九トンであったのに対しその販売実績は七・三トン(達成率六一・三パーセント)であり、ゴールドブレンドの販売目標は六・三トンであったのに対しその販売実績は六・〇三トン(達成率九五・七パーセント)であったことが認められる(前掲甲第八号証中の千葉出張所に関する記載部分は、甲第二九号証の四、五及び乙第二〇三号証の記載内容に照らして、にわかに採用することができない。)。そして、」に、同八六頁六行目の「他方、」(88頁2段13行目)を「しかしながら、」に、同八七頁四行目の「実行性」(88頁2段22行目)を「実効性」に改める。
(5) 原判決八八頁八行目の「すべて松村の責任である」(88頁3段17行目)から同一一行目の末尾(88頁3段22行目)までを次のとおりに改める。
「同出張所の販売実績が劣っていると評価するのは問題である。しかも、以上の販売実績はいずれも松村の浦和出張所長着任後極めて短期間内のものにすぎないのみならず、これらの販売実績は、その性質上、出張所長一人の努力のみによって達成し得るものではなく、出張所のセールスマン全員の努力によってはじめて達成し得るものであるから、これだけで直ちに松村のディストリクト・スーパーバイザーとしての責任ないし適格性の有無を問題にするのは相当でない。」
(四) 更に被控訴人は、松村には、ディストリクト・スーパーバイザーとしてのフィールド活動が不十分であり、しかも、自主的訪問システムに対する理解の不足、顧客管理、部下の指導、育成、他部門との連絡、調整等の不十分、販売目標の未達成等という問題点もあったので、上司の金作南関東営業所長が再三にわたり松村を指導及び督励したにもかかわらず、同人は改善の努力を怠り、成果も上げ得なかったと主張する。
そこで考察するに、(証拠・人証略)の中には、金作南関東営業所長が松村に対し、同行指導、部下の監督、販売目標の提出遅滞、月報作成の指導について、再三にわたり注意を与えた旨の記載や証言があるが、(証拠略)によると、(証拠略)中の日時の記載には明らかに事実と符合しない部分のあることが認められるから、(証拠・人証略)をそのとおりには採用することができない。しかし、松村には、前記認定のとおり、ディストリクト・スーパーバイザーとしての職務の遂行上若干の問題点のあったことは否定することができないから、その上司であった金作営業所長が、松村に対し、ある程度の注意を与えていたことは十分に推認することができる。そして、(証拠略)によれば、金作営業所長が、昭和五七年一二月の第一地域営業部の販売会議において、箕輪第一地域営業部長に対し、松村の浦和出張所長としての二か月半の勤務振りから判断して、部下の指導、育成及び統率に問題があるので配置転換して貰いたい旨の上申をしたこと、これに対し、箕輪部長が、自分も今すこし観察するから、更に指導の上、観察を続けるように指示したこと、次いで昭和五八年一月の同販売会議においても、金作営業所長が、箕輪部長に対し、松村にはあまり改善の兆しが見られないので何とかしてもらいたいと頼んだところ、箕輪部長もこれに同意したこと、更に、翌二月の同販売会議において、金作営業所長が、これ以上松村を浦和出張所長に留めておくと南関東営業所の負担になる旨具申したところ、箕輪部長も、金作営業所長の意見を容れて、松村を浦和出張所長から外すことを決定し、本件配置転換を行うことになったものであることが認められる。しかしながら、その後松村が改善の努力をせず、成果も上げ得なかったと認めるに足りる的確な証拠はない。むしろ、前記認定のとおり、松村の昭和五八年三月度以降のフィールド活動率は次第に向上するなど、同人が相当の努力をしていることが窺われるのである。
したがって、被控訴人の右主張はそのとおりには採用することができない。
4 以上のとおりであって、右に認定したところから直ちに、松村には浦和出張所のディストリクト・スーパーバイザーとしての適格性がないと判断するのは相当でない。すなわち、松村が浦和出張所長として着任した後、同人のディストリクト・スーパーバイザーとしての職務の遂行上、若干の問題があったことは前記認定のとおりであるが、しかし、それらはいずれも、同人が着任後新しい職務に慣熟するまでの間に生じた軽微な問題にすぎないのみならず、それらの中には同人一人の責任に帰せしめることは相当でないもの、又は、むしろ被控訴人の側ないし松村の前任者の側に責任があるといわざるを得ないものも含まれているのである。しかも、松村は、昭和四六年二月にディストリクト・スーパーバイザーに昇進し、北関東営業所宇都宮出張所長に就任して以来、昭和四八年五月には東京営業所東京第三(東久留米)出張所長に、同年九月には同営業所国分寺出張所長にそれぞれ転任し、その後、昭和五三年八月にアシスタント・スーパーバイザー(プロダクト・スーパーバイザー)として第一地域営業部の製品企画担当に転任するまでの間、七年半にもわたって首都圏における右各出張所長を歴任したことは、前記のとおり当事者間に争いがなく、かつ、その間に同人のディストリクト・スーパーバイザーとしての適格性が問題にされたことを認めるに足りる証拠はないのである。そして、松村は、その後も昭和五四年三月には第一地域営業部特約卸店担当課のアクティング・アシスタント・スーパーバイザー(トレード・スーパーバイザー)に、同年九月には同課のアシスタント・スーパーバイザー(トレード・スーパーバイザー)にそれぞれ昇進し、昭和五七年一〇月には、同人のディストリクト・スーパーバイザーとしての長い経験とアシスタント・スーパーバイザーとしてのトレードの知識とを買われて浦和出張所長への配置転換を命じられたのである。そこで、これらの事実を総合して考察すれば、松村に浦和出張所のディストリクト・スーパーバイザーとしての適格性がないと判断することは困難である。したがって、本件配置転換の当時、松村が浦和出張所のディストリクト・スーパーバイザーとしては不適格であり、被控訴人には、松村を浦和出張所長から神奈川営業所のトレード・セールスマンに配置転換しなければならない業務上の必要性があったという被控訴人の主張は採用することができない。したがってまた、被控訴人が本件配置転換には業務上の必要性があったとして縷々主張する事由は、いずれも単に本件配置転換が前記認定のとおり不当労働行為意思に基づいてなされたものであることを糊塗するための口実にすぎず、本件配置転換の不当労働行為性を否定ないし阻却するに足りるものではないというべきである。
四 結論
1 以上に認定、判断したところを総合して考察すると、被控訴人が補助参加人松村に対して行った本件配置転換は、当時同人が被控訴人の嫌悪する斉藤グループないし補助参加人両組合に所属する組合員であったこと、又は同人がこれらの組合に加入し若しくはこれを結成しようとしていたことを重大視し、同人の上司らによる再三の勧告にもかかわらず、同人が斉藤グループないし右両組合から離脱しなかったことに対する報復ないしみせしめとして行った不利益な降格処分であるとともに、その不利益処分を通じて、斉藤グループないし右両組合の勢力を減殺し、その活動を阻害しようとして行った支配介入行為であり、労働組合法七条一号及び三号所定の不当労働行為に該当するというべきであって、被控訴人の主張するごとく、被控訴人の業務上の必要性に基づいてやむを得ずに行ったものであるとは解し得ない。したがってまた、浦和出張所長在任中の補助参加人松村に、同人のディストリクト・スーパーバイザーとしての職務の遂行上、前記認定のとおりの若干の問題があったとしても、もし同人が同出張所長在任中ないし本件配置転換当時斉藤グループないし補助参加人両組合に所属する組合員でなかったとすれば、又は、同人が上司らによる勧告に従い右両組合から離脱して訴外両組合に移転していたとすれば、本件配置転換のごとき不利益な降格処分が行われることはなかったであろうと推認される。特に本件のごとく同人の浦和出張所長としての在任期間が僅か数か月での極めて性急かつ唐突な降格処分が行われることはまずあり得なかったものと考えられる。
2 そうすると、以上と同旨の認定、判断に基づいてなされた控訴人の被控訴人に対する本件命令は相当であって、これを違法として取り消さなければならない事由は認められない。したがって、その取消しを求める被控訴人の本件請求は、その理由がないから、これを棄却すべきである。よって、本件請求を認容した原判決は相当でないから、これを取り消した上、本件請求を棄却することとし、訴訟費用(補助参加によって生じた訴訟費用を含む。)の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥村長生 裁判官 渡邉等 裁判官富田善範は、転官につき、署名、捺印することができない。裁判長裁判官 奥村長生)